COLUMN
【2026年10月施行】企業のカスハラ対策が義務化――会社が今から準備すべきこと
「従業員が暴言を受けても、現場に任せたままになっている」「どこからがカスハラなのか判断できない」。このような課題を抱える企業は少なくありません。
2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)を防止するための雇用管理上の措置が、労働者を雇用するすべての事業主に義務付けられます。中小企業も対象です。
会社に必要なのは、単に「カスハラ禁止」と掲示することではありません。方針と対応ルールを決め、労働者向けの相談窓口を整え、発生時に従業員を守れる体制を実際に動かせるようにすることです。
この記事では、2026年7月30日時点の厚生労働省の指針とQ&Aをもとに、会社が施行までに準備したい内容を実務の順番で整理します。
この記事の要点
- 2026年10月1日から、中小企業を含むすべての事業主が対象
- まず「基本方針・現場の対処方法・相談窓口」を決める
- 記録、研修、警察・弁護士等との連携も、実際に動ける形で準備する
2026年10月から何が変わる?
改正労働施策総合推進法は2025年6月11日に公布され、カスハラ防止措置を事業主の義務としました。施行日は政令により2026年10月1日と定められています。企業規模による施行猶予はありません。
義務の中心は、次の内容です。
- 会社の方針と対処方法を決め、従業員へ周知する
- 労働者からの相談を受ける窓口を定め、適切に対応できるようにする
- 相談後、事実確認、被害者への配慮、再発防止を行う
- 特に悪質な行為への対処方針と連携体制を整える
- 相談者のプライバシーを守り、相談等を理由とする不利益取扱いをしない
これらは、労働施策総合推進法33条と厚生労働省の指針に基づく措置義務です。
これとは別に、事業主は、自社の従業員が取引先等の労働者へカスハラを行わないよう、研修その他の必要な配慮を行うよう努めなければなりません。事業主や役員自身にも、他社の労働者への言動に注意するよう努める責務があります。他社から業務に関係する事実確認への協力を求められた場合も、応じるよう努めることとされています。
| 項目 | これまで対応が十分でなかった企業 | 2026年10月1日以降 |
|---|---|---|
| 基本方針 | 現場ごとの判断 | 会社として方針を明確化し周知 |
| 相談 | 上司が個別対応 | 労働者向けの窓口と担当者を定める |
| 現場対応 | 担当者が一人で抱える | 報告・交代・応援要請等をルール化 |
| 発生後 | 記録や振り返りがない | 事実確認、被害者への配慮、再発防止 |
| 悪質事案 | その場で判断 | 警察・法務・弁護士等との連携方針を準備 |
カスタマーハラスメントとは?
法律と指針では、職場におけるカスハラを、次の3要素をすべて満たすものとしています。
- 職場において行われる顧客等の言動である
- 業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えている
- そのために労働者の就業環境が害される
「社会通念上許容される範囲を超える」とは、言動の内容が、契約内容、法令上の権利、商品・サービスの内容などに照らして相当性を欠く、または手段や態様が相当でないという意味です。目的、経緯、頻度、継続時間、業種、従業員側の対応などを総合して判断します。
「就業環境が害される」とは、身体的・精神的な苦痛により、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、働く上で看過できない程度の支障が生じることです。本人の受け止めにも配慮しつつ、同じ状況で平均的な労働者がその程度の支障を感じるかを基準に判断します。
「職場」は店舗や事務所だけではありません。取引先、顧客宅、電話、メール、SNSなど、従業員が業務を行う場面も含まれます。「顧客等」には、購入者、問い合わせをした人、取引先担当者、施設利用者の家族、近隣住民なども含まれ得ます。
対象となる労働者は、正社員だけでなく、パート、契約社員など会社が雇用するすべての労働者です。派遣先にも、派遣労働者について一定の措置が求められます。
正当な申入れはカスハラではない
商品不良の指摘、契約や法令上の権利に基づく相当な要求、合理的な説明・改善を求める苦情は、それだけでカスハラになるわけではありません。指針も、社会通念上許容される範囲の苦情は「正当な申入れ」であると説明しています。
また、障害のある方が不当な差別的取扱いをやめるよう求めたり、社会的障壁を取り除くための対応が必要だと申し出たりすること自体はカスハラではありません。事業者は不当な差別的取扱いをしてはならず、負担が過重でないときは必要かつ合理的な配慮を提供する義務があります。
求められた方法の実施が難しい場合も、直ちにカスハラと扱わず、代替方法を含めて建設的に対話します。ただし、申出とは別に暴行や脅迫等があり、3要素を満たす場合は、その手段について個別にカスハラ該当性を判断します。
| 確認点 | 正当な申入れ | カスハラになり得る言動 |
|---|---|---|
| 要求内容 | 契約、法令上の権利、商品・サービスに関係し、内容も相当 | 理由がない、契約を著しく超える、不当な賠償要求 |
| 伝え方 | 冷静な説明、相当な範囲の改善要求 | 暴行、脅迫、侮辱、土下座の強要 |
| 時間・回数 | 解決に必要な範囲 | 長時間の拘束、同じ要求の執拗な反復 |
| 判断 | 内容と方法を総合評価 | 一つの例だけで機械的に決めず、3要素と個別事情を確認 |
会社は「従業員が不快に感じたらすべてカスハラ」という基準にしてはいけません。反対に、自社側の対応に問題があった場合でも、そのことだけで暴行や脅迫が正当化されるわけではありません。
どのような行為がカスハラになり得る?
厚生労働省の指針は、社会通念上許容される範囲を超える言動の典型例として、次のような行為を挙げています。
- 殴る、蹴る、物を投げるなどの身体的攻撃
- 脅迫、人格否定、侮辱、暴言、土下座の強要
- 大声を上げ、従業員や周囲を威圧する行為
- 同じ質問や要求を執拗に繰り返す行為
- 長時間の居座り、電話での拘束、不退去
- 契約を著しく超えるサービスや不当な賠償の要求
- 従業員のプライバシー情報をSNSに投稿する行為
- 盗撮や、中止を求められた後も続けるなど、個別事情に照らして相当でない撮影
この一覧だけで自動的にカスハラと決まるわけではなく、3要素と個別事情の確認が必要です。一方、暴行や強い脅迫などは、1回でも就業環境を害する場合があります。
カスハラ対策で企業に義務付けられる5群の措置
厚生労働省指針4(1)~(5)が定める義務措置を、本記事では一般の方にも分かりやすいよう、次の5群に整理して説明します。「5群」は法令・指針上の正式な呼称ではありません。
1 方針と対処方法の明確化・周知
経営者が「カスハラには毅然と対応し、従業員を守る」という方針を明確にします。カスハラの内容、現場から上司へ報告する基準、担当交代、退店要請、通話終了、警察通報などの対処方法も定め、管理職を含むすべての従業員へ周知します。
2 労働者向け相談体制の整備
労働者から相談を受ける窓口と担当者をあらかじめ定め、顧客対応の有無や雇用形態を問わず、すべての従業員へ知らせます。既存のハラスメント窓口との一本化も、現場の上司を一次窓口にすることも可能です。
「カスハラか微妙な事案」や発生のおそれがある段階でも広く相談を受け、担当者が関係部署と連携できる体制が必要です。
3 発生後の迅速・適切な対応
相談者、周囲の従業員、記録などから事実関係を迅速・正確に確認します。必要かつ可能な場合には行為者にも確認します。
カスハラが確認できたときは、担当交代、複数人対応、行為者との分離、メンタルヘルス相談など、被害者への配慮を行います。その後、方針の再周知や接客上の問題の改善など、再発防止を進めます。事実を確認できなかった場合も、相談内容を踏まえ、同様の再発防止措置を講じます。
4 特に悪質な事案への対処方針
暴行、傷害、脅迫など犯罪に該当し得る言動について警察への通報を検討する、警告文を出す、法令の制限内でサービス提供を断る、出入り禁止や仮処分を検討するなど、特に悪質な行為への方針をあらかじめ定め、実行できる連携体制を整えます。
実際にどの措置を講じるかは、事案ごとに判断します。改正法が、サービス拒否、入店禁止、取引停止等の新たな権限を会社に与えるものではありません。従来からの法令、契約、施設管理権限等に基づき判断します。
業法等によるサービス提供義務がある場合や、サービスの中断が顧客等の生命・心身の健康に重大な影響を及ぼす場合は、直ちに提供を打ち切れるとは限りません。安全確保、担当交代、提供方法の変更、関係機関との連携等の代替策も検討します。
5 プライバシー保護と不利益取扱いの禁止
相談者や関係者の情報を必要な範囲に限って扱い、相談記録へのアクセス権限を定めます。また、相談、事実確認への協力、労働局への相談等を理由に、解雇その他の不利益な取扱いをしないことを定め、従業員へ周知します。
指針の義務措置を実務に落とし込む――企業が今すぐ準備すべき7項目
以下の7項目は、法令や厚生労働省のカスタマーハラスメント防止指針に、そのまま「7項目」として列挙されているものではありません。当事務所が、同指針の定める義務措置をもとに、中小企業が施行までに取り組みやすい実務上の準備作業として整理したものです。法定義務そのもののほか、指針が示す実施例や望ましい取組も含まれます。
| 当事務所が整理した準備項目 | 法的位置付けの目安 |
|---|---|
| 1 起きやすい場面の洗い出し | 望ましい取組・実務上の準備。アンケート等の形式が一律に法定されているわけではありません。 |
| 2 基本方針の決定 | 方針の明確化・周知という義務措置に対応します。顧客向け周知は望ましい取組です。 |
| 3 判断基準と現場対応のマニュアル化 | 対処内容の明確化・周知は義務です。マニュアル化は実施方法・指針上の実施例で、名称や形式は一律に法定されていません。 |
| 4 相談窓口と連絡先の決定 | 相談体制の整備という義務措置に対応します。 |
| 5 記録様式と情報管理の整備 | 事実確認等の義務を行うための実施方法・実務上の準備です。プライバシー保護等は義務ですが、記録様式の形式は一律に定められていません。 |
| 6 管理職・従業員への研修 | 方針・対処方法等の周知は義務です。研修はその実施例で、内容により望ましい取組も含みます。 |
| 7 外部連携先の確認 | 悪質事案への対処方針を実行するための義務の実施方法・実務上の準備です。すべての外部機関との契約が義務となるわけではありません。 |
1 自社で起きやすい場面を洗い出す
店舗、電話、訪問、配送、窓口、SNSなど、接点ごとに過去の事例を確認します。従業員へのアンケートやヒアリングも役立ちます。
2 基本方針を決める
従業員を守ること、正当な申入れには誠実に対応すること、カスハラには組織として対応することを文書にします。顧客向け周知は義務ではありませんが、防止に有効とされています。
3 判断基準と現場対応をマニュアル化する
「即時退避・警察通報」「上司へ交代」「説明後に通話を終了できる」など、現場が迷わない基準を決めます。従業員に最終判断まで負わせず、管理職や本部が判断を引き取る設計が重要です。
4 相談窓口と連絡先を決める
担当者、受付方法、夜間・一人勤務時の連絡先、担当者不在時の代替者を決めます。小規模企業では経営者や管理職を窓口にする方法もあります。人員が限られる場合も、外部窓口への委託、本社・本部への連絡、緊急時の警察通報などを組み合わせ、実際に相談・退避できる仕組みにします。
5 記録様式と情報管理を整える
日時、場所、発言、要求、対応者、目撃者、録音等の有無、心身への影響を記録できる様式を用意します。保存先、閲覧者、保存期間も決めます。
6 管理職と従業員へ研修する
定義だけでなく、報告のタイミング、交代の合図、一人で対応しない方法、正当な申入れとの区別を事例で練習します。
7 外部連携先を確認する
警察、産業医等、弁護士、本社・本部などの連絡条件を決めます。警告文、入店禁止、取引停止、仮処分などを検討する段階では、早めに法務部門や弁護士へ相談します。
これら7つの作業は、準備の進め方の一例です。実際の措置義務には、相談後の事実確認、被害者への配慮、事実を確認できなかった場合を含む再発防止、プライバシー保護及び相談等を理由とする不利益取扱いの防止も含まれます。
- 起きやすい場面を洗い出す望ましい取組実務準備
- 基本方針を決める義務
- 判断基準と現場対応をマニュアル化する義務実施方法実施例
- 相談窓口と連絡先を決める義務実務準備
- 記録様式と情報管理を整える実施方法実務準備
- 管理職と従業員へ研修する実施例望ましい取組
- 社内外の連携先を確認する実施方法実務準備
カスハラ発生時の対応フロー
- 安全を確保する
暴力や脅迫のおそれがある場合は、距離を取り、応援を呼び、必要に応じて警察へ通報します。 - 一人で抱え込ませない
管理職へ報告し、担当交代や複数人対応により、従業員を行為者から離します。 - 要求と事実を整理する
申入れの内容、自社の商品・接客上の問題、言動の方法、時間、回数を分けて確認します。 - 証拠と記録を確保する
対応記録、メール、防犯カメラ、通話録音、目撃者の話などを適切に保存します。 - 対応方針を判断する
正当な申入れへの説明・改善と、警告、対応終了、通報等の必要性を分けて検討します。業法や生命・健康への影響も確認します。 - 被害者を支援する
担当変更、休養、医療・産業保健スタッフへの相談など、状況に応じた配慮を行います。 - 再発を防ぐ
認定の成否にかかわらず相談内容を振り返り、方針、商品説明、接客方法、勤務体制を見直します。
- 安全を確保距離を取り、応援要請・必要な通報
- 組織対応へ切替え上司報告、担当交代、複数人対応
- 要求と事実を整理内容、方法、時間、回数、自社対応を確認
- 証拠・記録を確保記録、メール、映像、録音等を適切に保存
- 対応方針を判断説明・改善と、警告・終了・通報等を分けて検討
- 被害者を支援担当変更、休養、医療・産業保健への相談
- 再発を防止認定の成否にかかわらず体制を見直す
カスハラ対策義務化に関するよくある質問
Q1 中小企業も対象ですか?
はい。労働者を雇用する事業主は、企業規模にかかわらず対象です。小規模な店舗でも、実態に合った相談、緊急連絡、担当交代の方法を決める必要があります。
Q2 顧客からのクレームはすべてカスハラですか?
いいえ。契約や法令上の権利に基づく相当な要求や、相当な方法による苦情は正当な申入れです。要求内容、方法、経緯、頻度などを総合して判断します。
Q3 録音・録画してもよいですか?
指針は、顧客等とのやり取りの録音・録画を対処例に挙げています。ただし、個人情報保護法等を守る必要があります。
利用目的は、カスハラ事案の事実確認に用いる可能性を含めてできる限り特定し、通知または公表します。原則として、その目的に必要な範囲を超えて利用せず、保存、閲覧権限、社外提供、保存期間、廃棄のルールも定めます。
通話録音について、個人情報保護法上、録音中であることをその場で常に伝える義務まではありません。ただし、録画について、カメラの設置状況等から撮影されていることを本人が容易に認識できない場合は、掲示等により認識できる措置が必要です。いずれも、偽りその他不正な手段による取得は禁止されます。
Q4 就業規則の変更は必要ですか?
すべての企業で一律に変更が必要とはされていません。既存の信用失墜行為や服務規律違反等の規定で必要な措置を講じられる場合、カスハラ独自の懲戒規定を新設する必要はありません。
一方、相談等を理由に不利益な取扱いをしない旨は文書で定め、全従業員へ周知する必要があります。就業規則その他の規程、社内報、社内サイト等の現状を確認し、就業規則を変更する場合は必要な手続も確認します。
Q5 いつ弁護士へ相談すべきですか?
暴行・脅迫、SNS投稿、執拗な要求、警告文、入店禁止、取引停止、損害賠償、仮処分などを検討するときは、早めの相談が有効です。業法上サービスを断れるか、証拠をどう保存するか、顧客への通知をどう書くかも個別に確認します。
- 暴行、脅迫、器物損壊等がある
- 長時間又は繰り返しの対応が続く
- 担当者個人への攻撃がある
- SNS投稿や取引先への拡散を示唆されている
- 警告書や回答書を出したい
- 対応の打切り、入店制限、取引停止等を検討している
- 従業員の安全確保が必要
- 社内方針やマニュアルを見直したい
まとめ
2026年10月1日から、カスハラ対策は事業主の義務になります。
準備の中心は、基本方針、現場の対処方法、労働者向け相談窓口、発生後の事実確認と被害者支援、悪質事案への連携体制、プライバシー保護です。重要なのは、現場の従業員だけに判断と対応を背負わせないことです。
一方、正当な申入れや合理的配慮の申出まで排除してはいけません。業種、契約、顧客との接点、自社の人員体制に合わせ、実際に動かせる仕組みを整えます。
カスハラ対策の整備・個別対応をご検討の企業へ
カスタマーハラスメント対策では、会社の業種や顧客対応の方法に応じて、現場で実行できる方針と対応手順を整えることが重要です。
当事務所では、カスハラ対応方針や社内マニュアルの作成・確認、既存の社内規程・就業規則等の法的確認、個別事案への対応、顧客や取引先への回答書・警告書の作成などについてご相談をお受けしています。対応の打切り、入店制限、取引停止等を検討する際や、警察その他の関係機関への相談についても、個別事情に応じて法的な観点から助言します。
継続的な相談体制をご希望の場合には、顧問契約についてもご相談いただけます。
主な確認資料
- 労働施策総合推進法等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)
- 施行期日を定める政令(令和8年政令第17号)
- カスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)
- 厚生労働省「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(2026年4月24日)
- 厚生労働省「2026年10月1日からカスタマーハラスメント対策が義務化されます!」詳細版